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私は顔を洗い、泣いたらしい眼をよく洗って、さっと髪をなでつけ、お父さんのところへ行ってみた。
学問性は真理性の獲得であると云ったが、併し真理性の獲得とは、具体的に何を指すのであるか(問題は真理性の実践的な獲得であるのだから真理性に対する観念論的規定――普遍妥当性・真理価値――は今の場合一応除いておく)。茲に吾々は少くとも解釈の二つの道を事実上知っているのである。第一に真理性の獲得は問題の解決であると考えられる。真理性は与えられた問題を解決することによって初めて獲得され得るのでなければならないと考えられる。もし或る問題を解決し得ないならば、何人も真理性を獲得したとは信じることが出来ないに相違ない、判ったと思うことは不可能であるであろう。それ故この場合学問性は解決である。或る学問が解決力を持つ限り学問性を持ち、夫を有たない時之を有たないと考えられる。実際、何等の解決を齎すことの出来ない学問、その学問の学問性は無に等しいであろう。学問性とは研究を進め課題を解き得る実行力――学問の有用は何よりも先に之でなければならない――の他ではないと考えられる。プラグマチズムは恰も学問性――真理性の獲得――を茲に求めるのである(之に対して、真理は解決力――有用――の有る無しではなくして普遍妥当性を有つか有たないかにある、と云って反対することは、始めから許されていない。何となれば茲では真理性の単なる規定ではなくして真理性の獲得が問題であったのだから)。さて学問性は真理性の実践的獲得に存在し、それが解決の概念であった。処が方法は体系よりも常に何かの意味に於て実践的であったであろう。それ故解決の概念は体系にではなくして正に方法に属さねばならない。解決は方法概念の内にぞくす。それ故この場合の学問性は方法概念にぞくするのである他はない。かくて茲に於ては――学問性がもはや手続きや考え方・成果や組織ではなくして真理性の獲得である処では――方法が体系を優越することとならなければならない。学問性概念の動機への分析に於て一つの新しい方法概念――何となればそれはもはや体系概念との相互の否定を許さない優越なる方法であるから――を吾々は茲に見出したであろう。そして実際プラグマチズムの所謂方法は真理性獲得の手段の概念である。真理発見の手段が学問と考えられる。
学問とは何であるか。この学問論的な、一般的な問題に答える仕方を、吾々は恐らく幾つか持っているであろう。学問に於ける方法・対象の構造を分析すること、之は吾々が得た第一の解答であった。学問性の分析、之が吾々の見た第二の道であった。恐らく第三に人々は知識乃至認識の分析を提言するであろう。学問は或る意味に於ける構造から云って、知識乃至認識から成り立ち、又或る特定の条件の下に於けるその集成であることを誰しも常に意識しているに違いない、学問(Wissenschaft)は実際、知識(認識)の集成――Wissen-Schaft――であると考えられる。この第三の仕方に於て学問論を追求することは、学問論の内、特に知識学*又は認識論**の名を以て呼ばれている。或いは意識の自覚的体系を、或いは認識の論理的条件を解明するものとして――そしてこれも亦一つの学問論の名に値いするであろう――、現われるものがそれである。併し学問が知識乃至認識の集成であると云っても、この言葉自身が物語っている通り、知識乃至認識が直ちに学問であるのではない。学問は単なる知識単なる認識ではなくして、その集成であり、而も大事なことは、この集成が必然的に、――次に説かれるように――、歴史社会的存在としてあらねばならぬということである。吾々の有つ学問概念はこの歴史社会的規定によって、単なる知識概念、認識概念から自己を区別する。それであればこそ、吾々は今まで特に、専ら学問の対象・方法的構造と学問性概念とだけに於て、学問概念を分析して来たのであった(対象・方法が存在論的――即ち又歴史社会的――構造に於てあったこと、又学問性概念が歴史社会的根柢を有ったことを憶い起こそう)。又それであればこそ吾々は今まで、学問をば知識乃至認識という概念規定の側から見るのを故意に避けて来たのであった。
**同上S.176及びDilthey-DerAufbaudergeschichtlichenWeltinderGeisteswissenschaft(GesammelteSchriften-Bd.7-S.138)参照。フリッシュアイゼン・ケーラーはディルタイに基く。
*伝説と理由とを近づける時、神話性と学問性とは見分け難くなる。そして実際そのような場合を吾々はプラトンに於て、特に『ティマイオス』に於て、有つ。蓋し様々な意味に於て、神話は学問と密接な関係にあるであろう。
カツプにすこし残つていたソーダ水を割つたウイスキーを口にしながら上野駅の印象の続きを浮べてみた。雨に暮れかけた上野駅では東北の温水町から一緒に帰つて来た六七人の者がばらばらになつて帰りかけた時、随筆家として世間に知られている親い友人から呼び止められた。随筆家の友人は、土産にと持つて来た柿の籠を一緒に持つて往つて置いてくれといつた。
「芸術家の夫に与ふる」といふような手紙を書くつもりなのでしたが。
二十二日鶴見、河井、其他星野等と食事に招れる。
二十日Newオルレアンス着、黒人、綿。七時発。立つとき、金を貰いに来た男が、拒まれて、何かすて科白を云う。
「どうぞもう……。御遠慮なく……。市電がなくなるといけませんから」
聞いてるけどさ、冗談じゃなかったのか?オレはまだ信じられない。高野はさっきよりも大きな声で笑うと、あのマダムに冗談が通じないことぐらい分かるだろう。ここにいるクズたちが、ただのばばあの言うことを聞くわけがないじゃないか。オレは興奮していた。オレひとりがはめられたんじゃないのかと疑ったのだ。しかし、違った。みんな、お前と同じように集められたんだよ。もちろん、人によって違う方法でだけど、カメラマンの武田なんてヤクザにロープで縛られてやってきたんだぜ。スクリプターの令子は筋肉マンのイタリアーノに引っかけられて、ここまで来たんだしな。ちょっと待ってくれ、オレたちをここに集めて、一体何を始めようって言うんだ。オレがそう聞くと、高野は黙った。それだけが分からんのだ。お前は何か聞いてるのか。オレは首を振った。車に乗せられる前に里奈のおふくろが祭りだって言ってたけどな。高野はそばにあったシャンパングラスを取ると、祭りか、と呟いた。
吾々は今学問が何であるかをさし当りの問題にしようとは思わない、そうではなくして学問とは一応区別されたる、学問をして学問であらしめる処の学問の在り方(Wesenheit)――学問性――だけを分析して見れば充分である。それであるから例えば学問は諸々の概念の分類と結合とである、というような立ち入った説明は今の吾々の問題には直接に関わりを持たない*。又学問が何を求め何を研究するかということ、例えばそれは事物の原因・原理を研究するというような主張も之を顧みる必要はさし当りない**。吾々が今必要とする処のものは、このような原因、このような原理が、どういう条件に於て求められ研究される時に、その追求なり研究なりが学問的となるかという、その条件なのである。そして学問性が何であるかはおのずから学問が何であるかをも明らかにする出発であるであろう。
*物理学が数学的である点に於て科学としてのその権威を示していることを哲学的に特に指摘したのは、カントの功績の重大なものの一つである。併しこの点を最も高調したのは――コーエンを通って――ナトルプであると思われる(P.Natorp-DielogischenGrundlagenderexaktenWissenschaftenは之を代表する)。
二十日ダディを二時四十分の汽車に見送り、三人で(三浦鍋太郎、矢野)サブに乗り、村川氏に会いたいと云うので、送ろうとするAを強いて一〇三町目でおろす。
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